大分地方裁判所 昭和37年(わ)307号 判決 1972年3月31日
本店所在地
大分市大字勢家一、一三四番地
工藤建設工業株式会社
右代表者代表取締役
藤田英吉
本籍
大分市大字勢家一、一三四番地
住居
大分市碩田町二丁目一番二〇号
会社役員
工藤秀明
大正一五年一二月一日生
右被告人工藤建設工業株式会社、被告人工藤秀明に対する法人税法違反、被告人工藤秀明に対する贈賄各被告事件について当裁判所は検察官新井弘次出席のうえ審理を続け、次のとおり判決する。
主文
被告人工藤秀明を懲役一年二月および罰金五〇万円に、
被告人工藤建設工業株式会社を罰金一五〇万円に各処する。
被告人工藤秀明において右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人工藤秀明に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち、証人太刀川信太郎に支給した分および昭和三八年一一月一八日に証人榎本修に支給した分は被告人工藤秀明の負担とし、その余の訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告人工藤建設工業株式会社は、大分市大字勢家一、一三四番地に本店を設け、土木建築工事および砂利、砂、石材等の採取販売その他その付帯事業を営業目的とする会社であり、被告人工藤秀明は右被告会社の代表取締役として同会社の業務の一切を総括していたものであるが、被告人工藤秀明は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、
(一) 昭和三四年一月七日より同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は少くとも八一二万九、〇八二円であり、これに対する法人税額は二九八万九、〇五一円であるのにかかわらず、同事業年度の完成工事収入、販売収入等利益の一部を削減する等して所得の一部を隠匿し、昭和三五年二月二九日所轄大分税務署長に対し、右事業年度の所得金額は一八〇万四、七三一円で、その法人税額は五九万五、五五〇円である旨虚構の確定申告をなし、もって偽りの不正行為により前記の正規の税額と右申告にかかる税額との差額二三九万三、五〇一円の法人税を免れ、
(二) 昭和三五年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は少くとも一、一四二万三、四八二円でありこれに対する法人税額は四二四万〇、八九〇円であるのにかかわらず、前同様の不正な方法により所得の一部を隠匿し、昭和三六年二月二八日所轄大分税務所長に対し、右事業年度の所得金額は一六五万一、八一六円で、その法人税額は五四万五、〇九四円である旨 の確定申告をなし、もって偽りの不正行為により前記の正規の税額と右申告にかかる税額との差額、三六九万五、七九六円の法人税を免れ、
第二、被告人工藤秀明は
(一) 大分県大分土木事務所長として職務し、同事務所所管区域内の県営諸工事の計画、設計、調査ならびに工事施行に関し請負業者の指名、その実態する工事の監督、指導、調査等の事務および河川生産物(砂・砂利等)の採取許可ならびに採取状況の監督等の事務を管理している吉田政雄に対し、同会社かそれまでに請負った同事務所管内の 管工事の請負、監督、検査ならびに河川生産物の採取許可、監督等につき便宜を与えられたことの謝札として、また将来もこれらにつき同様の便宜を与えられないとの趣旨のもとに
(1) 昭和三五年八月上旬頃、大分市中島一二条三丁目所在の大分県公舎吉田政雄方において、現金三〇万円を
(2) 同年一二月下旬頃、同市城南町所在の大分土木事務所において、現金三〇万円を
(3) 同三六年八月上旬頃右同公舎において、現金二〇万円を
(4) 同年一二月下旬頃 同市 大字大分字天神島六、六一八番地の吉田政雄方において現金二〇万円を
(5) 同三七年八月上旬頃右同所において現金二〇万円をそれぞれ供与し
(二) 大分県土木部河川課長として大分県内における河川関係の県管諸工事の計画、設計、ならびに工事の施行に関し請負業者の指名に供与する等の事務、その実施する工事の監督、指導検査等の事務および河川生産物(砂・砂利等)の採取許可ならびに採取状況の監督等の事務を掌握していた川谷正基に対し同会社がそれまでに請負った河川関係の 管工事の請負、監督、検査ならびに河川生産物の採取許可、監督につき便宜を与えられたことの謝札として、また将来も 工等の請負、監督ならびに河川生産物の採取許可、監督等につき便宜を与えられたいとの趣旨のもとに
(1) 昭和三五年八月上旬頃、大分市大字大分六〇〇九番地の川谷正基方において現金一〇万円を
(2) 同年一二月下旬頃同市 町旧大分県庁正門前付近の路上において、現金一〇万円を
(3) 同三六年八月上旬頃、前記川谷正基方において、現金五万円を
(4) 同年一二月下旬頃、前同所において、現金五万円を
(5) 同三七年八月上旬頃、前同所において現金五万円をそれぞれ供与し
たものである。
(証拠の標目)
判示第一の事実全部について、(カツコ内の検番号は本件法人税法違反事件における検察官の請求番号である。)
一、被告人工藤秀明の収税官吏に対する各質問てん末書および検察官に対する各供述調書(検第一〇七ないし検第一二〇)
一、大塚賢三、榎本修の検察官に対する各供述調書(検第一〇ないし一三、検第一六、第一七)
一、第五回、第六回、第七回、第八回、第九回、第一二回、第一三回、第一四回、第一六回、第一七回、第一九回各公判調書中の証人大塚賢三の各供述部分
一、第一八回、第一九回各公判調書中の証人榎本修の各供述部分
一、第二〇回、第二八回、第三〇回各公判調書中の証人河野又衛の各供述部分
一、第二二回、第二三回各公判調書中の証人工藤遼子の各供述部分
一、収税官吏作成の各差押額末書および領置顛末書
一、押収してある法人税決定決議書(昭和三八年押第四九号の附一三九)
判示第一の(一)の事実(昭和三四年度分)のうち
(1) 完成工事高について
一、押収してある昭和三四年決算関係資料(勘定科目内訳説明)(同押号の符七四)、昭和三四年決算関係資料(雑記録)(同押号の符七五)、売上帳(同押号の符九一)、売上帳(同押号の符九二)
一、梅林建設(検第一二七の一および二)、大分市役所(検第一二八)、大分市土木事務所(検第一二九)、三浦組(検第一七一)、各作成の各取引高証明書
一、河野又衛作成の昭和三四年度販売収入、完成工事高のうち被告人会社の部分とその他の部分に関する区別計算表と題する書面(第二八回公判調書中の証人河野又衛の供述部分の一部として提出)
(2) 販売収入について
一、押収してある昭和三四年決算関係資料(勘定科目内訳説明)(同押号の符七四)、売上帳(同押号の符九)、売上帳(同押号の符九二)、売掛帳(同押号の符九七)、経理課日誌(同押号の符一三五)
一、清水建設(検第五九の一)、鹿島建設(検第六四)、佐藤組(検第八七の一、および二)、中島工業(検第九〇)、富重産業(検第九三)、三ケ尻組(検第九五)、田島商事(検第九九)、南セメント(検第一〇四)、浅野物産(検第一二一)、秋吉建設(検第一二二)、有田組(検第一二三)、今村産業(検第一二五)、市橋工務店(検第一二六)、梅林建設(検第一二七の一および二)、大分市役所(検第一二八)、大分県土木事務所(検第一二九)、大分バス(検第一三一)、大林組(検第一三二)、大分精神病院(検第一三四)、河野組(検第一三五)、九州鋼弦コンクリート(検第一三六)、大分銀行(検第一三八)、建設省大分土木事務所(検第一四二)、後藤建設(検第一四三)、三栄工業(険第一四五)、島田商店(検第一四八)、杉乃井ホテル(検第一四九)、菅梯組(検第一五〇)、高山組(検第一五一)、高橋土木(検第一五三)、高山工業(検第一五六)、鶴見園(検第一五七)、芦田粗(検第一五九)、東九建設(検第一六〇)、東和ブロツク(検第一六二)、長尾建設(検第一六三)、西日本電線(検第一六四)、橋本建設(検第一六六)、別府鶏卵(検第一六八)、別府竣工事務所(検第一六九)、三浦組(検第一七一)、溝口組(検第一七二)、平和土木(検第一七三)、坊主地獄(検第一七四)、町田組(検第一七五)、馬尻建設(検第一七六)、水江商店(検第一七七)、吉松建設(検第一七八)作成の各取引高証明書
一、岡田泰治作成の上申書(検第七〇)
一、松船逼作成の取税官吏に対する質問てん末書添付の一覧表(検第一〇二)
一、第二七回公判調書中の証人森田明比古の供述部分
一、河野又衛作成の昭和三四年度販売収入、完成工事高のうち被告人会社の部分とその他の部分に関する区別計算表と題する書面(これは、第二八回公判調書中の証人河野又衛の供述部分の一部として提出)
(3) 雑収入、営業外収益、完成工事原価、販売原価、一般管理費、営業外費用について
一、押収じてある経理課日誌(同押号の符一三五)、経理日誌(同押号の符一三六)、昭和三四年仕訳伝票綴二四冊(同押号の符一六ないし符三九)
(4) 営業外収益について
一、第二四回公判調書中の証人佐藤マス子、同桜井秀夫の各供述部分
一、第二五回公判調書中の証人高橋正雄、同金矢保の各供述部分
(5) 完成工事原価について
一、押収してある昭和三三年度完成工事原価内訳表(同押号の符九)、昭和三四年度完成工事原価内訳表(同押号の符一〇)、昭和三三年度分工事契約書綴(同押号の符一六七)
一、大分市役所作成の取引高証明書(検第一二七)
一、第五〇回公判調書中の証人河野又衛の供述部分
(6) 販売原価について
一、押収してある売上帳(同押号の符九一)、売上帳(同押号の符九二)
一、鹿島建設作成の取引証ひょう伝票(検第六五の一ないし四)
一、第二四回公判調書中の証人佐藤マス子、同桜井秀夫、同塩地平の各供述部分
一、第二五回公判調書中の証人高橋正雄、同金矢保の各供述部分
一、第二七回公判調書中の証人森三郎、同松村嘉雄の各供述部分
一、第二八回公判調書中の証人本田広美の供述部分
一、第二八回、第三〇回各公判調書中の証人阿部泰隆の各供述部分
一、第五〇回、第五三回各公判調書中の証人阿南京一の各供述部分
一、第五〇回、第五二回各公判調書中の証人宮本伸年の各供述部分
一、証人福島頼明、同安部克己の当公半廷における各供述
(7) 一般管理費について
一、押収してある入金、出金伝票綴二五冊(同押号の符一〇〇ないし符一〇四、符一〇六ないし符一一〇、符一一二ないし符一一五、符一一八、符一一九、符一二一、符一二四、符一二六ないし符一三〇、符一三三、符一三四)
(8) 営業外費用
一、大分信用金庫作成の貸付金元帳(検第一八八)
一、押収してある車両購入契約書綴(同押号の符四二)
一、第二六回、第二九回各公判調書中の証人大塚賢三の各供述部分
判示第一の(二)の事実(昭和三五年分)のうち
(1) 完成工事高について
一、押収してある昭和三五年決算関係資料(貸借対照表、損益計算書)(同押号の符五一)、売上帳(同押号の符九二)、経理日誌(同押号の符一三八)
一、大分市役所(検第一二八)、大分県土木事務所(検第一二九)、熊本営林局(検第一三九)、竹内建設(検第一五二)各作成の各取引高証明書
(2) 販売収入について
一、押収してある昭和三五年決算関係資料第二回決算報告書(同押号の符四七)、昭和三五年決算関係資料貸借対照表損益計算書(同押号の符四八)、昭和三五年決算関係資料(販売収入表)(同押号の符五二)、昭和三五年決算関係資料(販売収入内訳表)(同押号の符五三)、売上帳(同押号の符九二)、昭和三五年売掛帳(同押号の符九六)、売掛帳(同押号の符九七)
一、清水建設(検第五九の一)、鹿島建設(検第六四)、佐藤組(検第八七の一および二)、中島工業(検第九〇)、富重産業(検第九三)、三ケ尻組(検第九五)、出島商事(検第九九)、南セメント(検第一〇四)浅野物産(検第一二一)、秋吉建設(検第一二二)、今村産業(検第一二五)、梅林建設(検第一二七の一および二)、大分市役所(検第一二八)、大分県土木事務所(検第一二九)、大分交通(検第一三〇)、大林組(検第一三二)、大分県自動車学校(検第一三三)、大分精神病院(検第一三四)、河野組(検第一三五)、杵築建設(検第一三七)、田布高原開拓農業協同組合(検第一四〇)、後藤組(検第一四一)、建設省大分土木事務所(検第一四二)、後藤建設(検第一四三)、佐伯土建(検第一四四)、三栄工業(検第一四五)、敷島組(検第一四六)、城南建設(検第一四七)、杉乃井ホテル(検第一四九)、高山組(検第一五一)、田原商会(検第一五四)、多田工務店(検第一五五)、高山工業(検第一五六)、鶴崎高校(検第一五八)、戸田組(検第一五九)、東裕水道(検第一六一)、東和ブロック(検第一六二)、長尾建設(検第一六三)、西日本電線(検第一六四)、橋本建設(検第一六六)、藤沢医科器(検第一六七)、別府鶏卵(検第一六八)、別府湾工事事務所(検第一六九)、三浦組(検第一七一)、溝口組(検第一七二)、平和土木(検第一七三)、馬尻建設(検第一七六)各作成の各取引高証明書
一、松 作成の収税官吏に対する質問てん末書添付の一覧表(検第一〇二)
一、石井建設(検第一二四)、藪内一郎(検第一六五)、みのり学園(検第一七〇)各作成の各上申書
(3) 営業外収益、完成工事原価、販売原価、一般管理費、営業外費用について
一、押収してある昭和三五年度経理日誌(同押号の符一三七)、昭和三五年度下期経理日誌(同押号の符一三八)、昭和三五年度仕訳入金、出金伝票三七冊(同押号の符九八ないし符一三四)
(4) 営業外収益について
一、押収してある昭和三五年決算書類綴(同押号の符四六)
一、第二四回公判調書中の証人佐藤マス子、同桜井秀夫の各供述部分
一、第二五回公判調書中の証人高橋正雄の供述部分
(5) 販売原価について
一、押収してある出納帳(同押号の符六)、昭和三五年決算関係資料貸借対照表、損益計算書(同押号の符四八)、昭和三五年決算関係資料(営業費内訳表)(同押号の符五七)、昭和三五年決算関係資料(一般管理費ほか諸表)(同押号の符六四)、売上帳(同押号の符九一)、売上帳(同押号の符九二)
一、鹿島建設作成の取引証 伝票(検第六五の三および四)
一、第二四回公判調書中の証人佐藤マス子、同桜井秀夫の各供述部分
一、第二五回公判調書中の証人高橋正雄、同木村哉の各供述部分
一、第二六回公判調書中の証人鹿子島昭治の供述部分
一、第二七回公判調書中の証人松村嘉雄、同森三郎の各供述部分
一、第二八回、第三〇回各公判調書中の証人阿部泰隆の各供述部分
(6) 一般管理費について
一、押収してある出納帳(同押号の符六)
(7) 営業外費用
一、大分信用金庫作成の貸付金元帳(検第一八八)
判示第二の事実全部について
一、被告人工藤秀明の当公判廷における供述
一、本件贈賄事件(昭和三七年(わ)第三〇七号)の第一四回公判調書中被告人工藤秀明の供述部分
一、被告人工藤秀明の検察官に対する各供述調書(第一、三回)
一、本件贈賄事件の第一一回公判調書中証人工藤道子、同榎本修、同太刀掛信太郎の各供述部分
一、証人松光に対する当裁判所の尋門調書
一、検察官に対する工藤道子(第一、二回)、榎本修の各供述調書
一、大分県人事課長伊勢久信の検察官宛「職員の人事記録について」と題する回答書
一、大分県知事木下 の検察官宛「大分県土木部の行政組織及び事務決裁の規定について」と題する回答書
一、検察事務官真田公生の検察官宛「大分県土木部河川課及び大分土木事務所の分掌事務について」と題する報告書
一、大分県監理課長河野達雄の検察官宛「土木建築業者の工事施行能力について」と題する回答書
一、検察事務官和田信太郎外一名の検察官宛「大分土木事務所施行にかかる昭和三四、三五、三六年度工事明細について」と題する報告
一、大分土木事務所長の検察官宛「職員の給与に関する件について」と題する書面
一、押収してある現金出納薄一冊(昭和三八年押第七九号の符一)、日本勧業銀行の普通預金通帳一冊(同押号の符二)、贈答品関係綴(三五、六年-同押号の符三)、贈答品関係綴(同押号の符四)、河川生産物払下申請書綴三冊(同押号の符五)、昭和三六年度下半期経理日誌一冊(同押号の符一四)、昭和三七年度経理日誌一冊(同押号の符一六)、大分信用金庫普通預金通帳二冊(同押号の符一五および一七)
一、検察事務官大久保忠男外一名の検察官宛「工藤建設工業株式会社と大分市都市計画課、同土木課及び大分県大分土木事務所間の工事請負実績の調査について」および「大分市(都市計画課、土木課)及び大分県土木事務所に対する工藤建設工業株式会社の骨材販売実績の調査について」と題する各報告書
一、検察事務官藤原重則外二名の検察官宛「骨材採取実績調査結果について」と題する報告書
および判示第二の(一)の事実について
一、贈賄事件の第一〇回公判調書中証人吉田政雄、同吉田ミヨシの各供述部分
一、検察官に対する吉田正雄(第二ないし第四回、第六回、第八ないし第一〇回)、吉田ミヨシ(第一、二回)、工藤道子(第一、二回)、榎本修、佐藤杢太郎、松崎徹、河村秀俊、利根久雄、衛藤次夫、安東利人、佐藤秀夫、川原進、検察事務官に対する植木官一の各供述調書
判示第二の(二)の事実について
一、贈賄事件の第一一回公判調書中証人川谷正基の供述部分
一、検察官に対する川谷正基の供述調書(第一ないし第一一回)を総合してそれぞれこれを認定する。
(当裁判所の判断)
一、所得の計算方法
一般に法人税の適用にあたり法人の各事業年度の所得を計算する方法としては、いわゆる財産計算法(一定期間の期首と期末の資産および負債を比較対照してその差額により所得の額を算出する方法)と損益計算法(一定期間内に他から得た財産とそのために支出あるいは費消した財貨との差額により所得の額を算出する方法とがあるが、弁護人は本件において被告会社の所得金額が損益計算法のみを基礎として算出されているのは違法、不当であると主張している。
しかしながら法人税法は同法における所得金額は財産計算法と損益計算法の両方によって確定すべきことを何ら要求しておらず、そのうちいずれかの方法によって確定しうるならばこれをもって足りるのであって、そのいずれをとるかは、もっぱら調査上の便宜に従うをさまたげないものというべきであるから、本件には弁護人主張のような違法、不当な点はない。
本件においては、昭和三四年度、昭和三五年度における各事業年度始め、および各事業年度末の財産状態は、被告人工藤秀明が経営していた工藤砂利工業所から、法人たる工藤建設工業株式会社に移行した時期に当るので、明確に確定することができないため、各事業年度の取引額および損失額を確定した上所得金額を算定するいわゆる損益計算法がとられたものであることは、本件記録に徴して明らかであるから、右算定方法は本件における所得金額算定方法としては、最も妥当な方法であったといえよう。
ところで、被告会社の申告にかかる昭和三四、三五各事業年度における同会社の損益計算の内容は、法人税決定決議書(昭和三八年押第四九号の符一三九)によれば昭和三四、三五年度各修正損益計算書(別終1、2)の申告額欄記載のとおりであったことが認められるが、当裁判所は前記証拠の標目欄に掲記した各証拠はよって実際のその内容および所得金額は同計算書の各認定額欄記載のとおりと認定した。以下順次認定に至った経緯につき各勘定科目ごとに当裁判所の判断を示す。
二、昭和三四年度における脱漏所得金額
(1) 完成工事高
法人税法決議書(昭和三八年押第四九号符一三九)によれば、完成工事高として二、四八一万二、〇四三円が申告されており、その明細は昭和三四年決算関係資料(勘定科目内訳説明)(同押号の符七四)の得意先別売掛内訳表の完成工事高欄に記載されているが、売上帳(同押号の符九一および符九二)、取引高証明書その他前掲証拠によると、申告額と異なった真実の取引額を認定することができる。
申告と異なる取引関係およびその取引額は昭和三四年度完成工事高表(別紙3)に記載してあるとおりであり、申告額との差額の五五九万六、五六三円が脱漏金額である。
なお梅林土木との取引金額は、完成工事高と販売収入の合計額が一、四六五万八、〇二〇円(取引高証明書検第一二七による)となるが、昭和三四年決算関係資料(勘定科目内訳証明)(同押号の符七四)、昭和三四年決算関係資料(雑記帳)(同押号の符七五)によって完成工事高が九七一万六、一〇四円と認められるので、その残高四九四万一、九一六円を販売収入とした。このうち一月一日から一月六日までの法人設立以前の取引額を五万〇、〇七六円と認定し、罰金額を差し引いた九六六万六、〇二八円を梅林土木関係の完成工事高と認定する。
三浦組の取引額は、売上帳(同押号の符九一の一二四丁)によれば一三九万五、一〇〇円であるが、このうち完成工事高は申告額どおりの一二万円と認定し、残高一二七万五、一〇〇円を販売収入と認定する。
(2) 販売収入
法人税決定決議書(同押号の符一三九)によれば、販売収入の申告額は六、四〇八万四、五九九円であるが、その明細は昭和三四年決算関係資料(勘定科目内訳説明)(同押号の符七四)の得意先別売掛内訳表の当期売上高欄および現金販売表に記載されたとおりであって、売上帳、取引高証明書その他前掲証表によって申告書と異なった取引額を認定することができる。
ところで、被告会社は昭和三四年一月七日に設立されているので、一月分の取引として売上帳等に記載されている金額のうち、設立以前に発生した販売収入についてはこれを控除すべきであるが、その計算方法は、売上帳等によって請求年月日を確かめ、骨材の販売、重機械賃貸の時間貸については、一月一日から一月三日までの分を除いて日額計算をし、重機械賃貸の月極めについては一月一日から一月三日までの分を含めて日額計算をすることが相当であると判断した。第二八回公判調書中の証人河野又衛の供述部分によると、同人は「昭和三四年度販売収入、完成工事高のうち被告人会社の部分とその他の部分に関する区別計算表」と題する書面を提出し、一月六日以前の販売収入は控除されるべき旨主張しているが、同書面四枚目の高山工業の「符九一の三八丁、四〇丁、四二丁」の欄は、「符九一の三四丁」の欄と重複しており、同書面六枚目の清水建設の「符九二の一〇丁」欄の一行目ないし三行目は、四行目ないし六行目と重複し、同書面五枚の浜松秋義については販売収入として計上されていないので、以上は計算から除外した。
申告額と異なる取引関係およびその取引額は昭和三四年販売収入表(別紙4)記載のとおりであり、申告額との差額一、七二一万七、二八七円が販売収入の脱漏金額である。
なお、弁護人は、梅林土木に対する販売収入につき、昭和三四年一月五日現在、被告会社の梅林土木に対する売掛金が二三七万八、二三八円(経理日誌同押号の符一三五の一月五日欄)存していたと主張するが、売上帳(同押号の符九一)、および取引高証明書(検第一二七の一および二)によって販売収入、および工事高を算出したのであり、いずれも昭和三四年度分の収入とみられるものばかりで、弁護人主張のように被告会社に属さない販売収入まで含めて計算していない。
また大分市土木課に対する販売収入についても昭和三四年一月一三日現在、被告会社の大分市土木課に対する売掛金が七六万一、〇〇〇円(経理日誌同押号の符一三五の一月一三日欄)存していたと主張するが、売上帳(同押号の符九二)、取引高証明書(検第一二八)によると、経理日誌に畑中残金として記載されている七六万一、〇〇〇円は、工事出来高、販売収入のいずれにも含めずに計算されている。よって弁護人の主張はいずれも採用できない。
(3) 営業外収益
法人税決定決議書(同押号の符一三九)によれば、営業外収益として四二万五、三七〇円が申告されているが、佐藤トラック、高橋トラックに対する名義料、清水建設社長に対する返戻金の手数料は、営業外収益として計上されていないが、一方経理日誌(同押号の符一三五および符一三六)によると別口入金としての記載があり、以上の名義料等は営業外収益から脱漏しているものと認められる。
申告と異なる営業外収益関係およびその額は昭和三四年度営業外収益表(別紙5)のとおり、その脱漏額は一三万五、〇〇〇円である。
(4) 完成工事原価
(イ) 検察官は、完成工事原価として申告されているうち、七、四九八円に相当する金額は被告会社設立以前の費用であるからこれを差し引くべき旨主張するが、右金額が申告額の中に含まれていると認めるに足りる証拠はなく、罰金額を差し引くことは相当でない。
(ロ) 大分市 作成の取引高証明書(検第一二八)によると、 ノ原区画整理工事は、その着工時期が昭和三三年一二月二六日で、その竣工時期が昭和三四年二月四日であり、工事契約書綴(同押号の符一六七)によると田中様取付工事は、その着工時期は昭和三三年一二月九日で、竣工時期は昭和三四年三月一五日であることが認められ、いずれも昭和三四年一月七日現在仕掛中の工事であって同日までの未成工事支出金は、法人税決定決議書(同押号の符一三九)、昭和三三年度完成工事原価内訳表(同押号の符九)、昭和三四年度完成工事原価内訳表(同押号の符一〇)、第五〇回公判調書中の証人河野又衛の供述部分によると、一五六万四、二一二円であることが認められる。
ところで右末成工事支出金一五六万四、二一二円は完成工事原価として計上されていないので、同金額は完成工事原価として増額すべきものである。
(5) 販売価格
(イ) 返戻金等
第二四回公判調書中の証人桜井秀夫、同塩地平の 供述部分、第二五回公判調書中の証人金矢保の供述部分、第二七回公判調書中の証人森三郎の供述部分、第二八回公判調書中の証人本田広美の供述部分を総合すると、被告会社は清水建設に対し、骨材等の販売代金を請求する際に、清水建設の工事現場からの要求に応じて架空の販売代金を加算して清水建設に請求しており、その架空の販売代金は、被告会社が一旦清水建設から販売収入として受取り、その後、工事現場の社員に対し支払われている事実が認められる。
同様のことが、鹿島建設の関係においても行なわれていることが認められる。(二七回公判調書中の証人松村嘉雄の供述部分)
ところで、第二八回、第三〇回各公判調書中の証人阿部泰隆の各供述部分によると、当時清水建設の大分出張所所長をしていた阿部泰隆は、被告会社から昭和三四年九月二三日に一〇万円を、昭和三五年一一月一〇日には二〇万円を受取っていることが認められるところ、阿部は右証言中において右金員は同人が個人的に被告人工藤秀明から借りたものである旨供述しているけれども末だに返済されていないことなどから、むしろ右返戻金と同様の性質を有する金員と認めるのが相当である。
また、第二四回公判調書中の証人佐藤マス子の供述部分および第二五回公判調書中の証人高橋正雄の供述部分によると、被告会社が清水建設から受領した販売収入には、佐藤トラックおよび高橋トラックに対する運送賃が含まれており、被告会社は両トラックに対し月々運送賃を支払っていることが認められるところ、右の金額はすべて販売原価として認めてよいものであるが、その一部が販売原価の外注費として計上されているものの、計上洩れになっているものが五三四万八、三〇八円存在する。
また被告人工藤秀明の収税官吏に対する質問てん末書(検第一一二)によると、売上帳(同押号の符九一)の四四丁、四六丁に記載されている大本組に対する立替金八七万二、八九五円も販売原価として計上されていないことが認められる。
よって、販売原価として計上されていない返戻金等の合計六二二万一、二〇三円は販売原価として増額すべきものである。なお返戻金等のうち、計上洩れになっているものは昭和三四年度販売原価表(別紙6)記載のとおりである。
弁護人は、右返戻金以外にも梅林土木に対する売上返戻金二〇万円、大本組に対する売上返戻金五〇万円、清水建設阿部に対する売上返戻金五〇万円が存ずる旨主張するが、被告人工藤秀明の収税官吏に対する各質問てん末書および検察官に対する各供述調書によれば、返戻金としては前述の清水建設鹿島建設以外には存在しておらず、大本組に対しては立官金が存在していたことは認められるが、弁護人主張のような返戻金が存していたことは認められない。
(ロ) 法人設立時の管材代
被告会社設立時において、被告人工藤秀明の個人経営時代に有していた骨材(砂利・砂)の量について検討するに、第五〇回、第五二回各公判調書中の証人宮本伸年の各供述部分、第五〇回、第五三回各公判調書中の証人阿南京一の各供述部分によると、同被告人は当時同証人らは、大分川河川敷には五〇〇立方米、大野川河川敷に五〇〇立方米、市営プール先空地に二、〇〇〇ないし二、五〇〇立方米、日伯セメント広場に四、〇〇〇ないし五、〇〇〇立方米の骨材を保有していたと証言しているが、当公判廷における証人福島頼明の供述によると市営プール先空地には河川敷に置いてある砂利が増水のために流されそうになったため、夏の間だけ臨時的に三ケ月間砂利を置かせていたにすぎず、昭和三四年一月七日当時、砂利は全く置かれていなかった事実が認められるし、また証人安部克己の供述によると、日伯セメント敷地内には多い時でも二〇〇坪(六六〇平方米)と一〇〇坪(三三〇平方米)の三分の一の面積に高さ八尺(約二・四米)の山型に積まれていたというのであるから、もっとも被告人らのために有利に見ても、検察官主張のように四〇〇立方米を超える量が置かれていたものと認めることはできないし、また被告人工藤秀明の昭和三七年二月二七日付収税官吏に対する質問てん末書(検第一一三)によると、同被告人自身全部でわずか一二〇立方米(単価四五〇円)しか存在していなかった旨述べていることが認められる。
以上の証拠により、昭和三四年一月七日当時存していた砂利の量は、大分川、大野川の河川敷にそれぞれ五〇〇立方米、日伯セメントの広場に四〇〇立方米をこえるものでなかったと認められ、よって六三万〇、〇〇〇円相当が当期中に費消されているので、これを販売原価として認めることとする。
(ハ) したがって以上の(イ)、(ロ)の合計六八五万一、二〇三円が販売原価において認められる脱漏額となる。
(6) 一般管理費
(イ) 昭和三七年一月一六日付被告人工藤秀明の収税官吏に対する質問てん末書(検第一一一)によれば、申告額のほか交際費、旅費、労務管理費、車両費、雑費合計五七〇万円を出費していることが認められる。
しかるに弁護人は、昭和三四年および昭和三五年の両年度の脱漏額を合計した一、一四〇万円のうち、昭和三四年度分は七二万円であり、昭和三五年度は一、〇六八万円である旨主張しているのであるが、その算定方法を可とすべき明確な根拠は証拠上明らかでなく、むしろ被告人工藤秀明が質問てん末書において述べているとおり、昭和三四、三五各年度における脱漏額はそれぞれ五七〇万円であったと認めるのが相当である。
(ロ) 昭和三四年度の申告には一般管理費の内訳として修繕維持費が計上されており、昭和三五年度においても同様の申告がなされているが、昭和三五年度では乗用車に関する費用も修繕維持費として計上されているにもかかわらず、昭和三四年度には乗用車に関する費用は含まれていない。よって昭和三四年度においても昭和三五年度と同額の乗用車に関する費用四六万〇、〇八三円(ただし、昭和三五年六月二〇日大分自動車整備会社から購入したカークーラー一式二二万円相当は資産と認められるので乗用車経費に含ませない。)を修繕維持費として認めるのが相当である。
(ハ) 検察官は一般管理費として申告されている金額のうち三万三、七五六円は被告会社設立以前の費用であるからこれを差し引くべき旨主張するが、右申告額の中に右費用が含まれているとの証明がないので、これを差し引くことは相当でない。
(ニ) 以上のとおり、(イ)の五七〇万円、(ロ)の四六万〇、〇八三円の合計六一六万〇、〇八三円が一般管理費として増額されるべき金額と認める。
(7) 営業外費用
(イ) 被告人工藤秀明の収税官吏に対する質問てん末書(検第一一一)によると、銀行関係に対する借入金の利息九万三、〇一一円が営業外費用として計上されていない旨述べており、大分信用金庫作成の貸付金元帳(検第一八八)によって昭和三四年度営業外費用表(別紙(7))記載のとおり認められる。
(ロ) バケットローダーの損金
押収してある車両購入契約書綴(同押号の符四)および、第二六回、第二九回各公判調書中の証人大塚賢三の供述部分によると、昭和三四年一月一五日被告会社は小松製作所からD-50型バケットローダー一台を五一三万九、五四〇円で購入したが、その際昭和三二年一月三一日に被告人工藤秀明が小松製作所から購入したD-50型バケットローザー一二五〇号機一台(購入価格五〇五万円)を七〇万円で下取りさせたことが認められる。
ところで、検察官はこれについて、被告会社が昭和三四年一月七日に設立し、その後わずか八日後に七〇万円で小松製作所が下取りしたのであるから、当該バケットローダーD-50型一二五〇機の時価は下取り価格の七〇万円にしかすぎず、被告会社は被告人工藤秀明から七〇万円で引き継いだと主張するが、むしろ、前記採用の証拠によると昭和三二年一月三一日に五〇五万円で購入したD-50型バケットローザー一二五〇機は、昭和三四年一月一五日当時まで減価償却費を控除した未償却価額三二三万二、〇〇〇円が適正価額であり、この価額で被告会社が引き継ぎ、これを小松製作所は七〇万円と評価して下取りしたと認めるのが相当であり、したがって二五三万二、〇〇〇円の譲渡損は、被告会社の営業外費用に算入されるべきものと認める。
(ハ) よって、右(イ)、(ロ)の合計二六二万五、〇一一円が営業外費用として増額されるべき金額である。
(8) 以上明らかにしたとおり、完成工事高については五五九万六、五六三円を、販売収入については一、七二一万七、二八七円を、営業外収益については一三万五、〇〇〇円を、完成工事原価については一五六万四、二一二円を、販売原価については六二七万五、二〇三円を、一般管理費については六一六万〇、〇七三円を、営業外費用については二六二万五、〇一一円をそれぞれ増額することとし、これによって当期利益金は六三二万四、三五一円を脱漏していることが認められ、よって昭和三四年度の当期利益金は八一二万九、〇八二円である。
そうして昭和三四年度の所得金額八一二万九、〇八二円に対する税額は二九八万九、〇五一円となり、脱税額は二三九万三、五〇一円である。
三、昭和三五年度における脱漏所得金額
(1) 完成工事高
法人税決定決議書(同押号の符一三九)によれば、完成工事高の申告額は七、一七七万七、九〇一円であり、その明細は完成工事原価明細表に記載されているが、真実の取引額は昭和三五年決算関係資料(貸借対照表、損益計算書)(同押号の符五一)、売上帳(同押号の符九二)、経理日誌(同符号の符一三八)、取引高証明書その他前掲証拠によつて認定することができる。
申告額と異なる完成工事取引関係およびその取引高は昭和三五年度完成工事高表(別紙8)記載のとおりであり、その脱漏額は四三二万〇、八三八円である。
(2) 販売収入
法人税決定決議書(同押号の符一三九)によれば販売収入は七、九三五万七、九三九円と申告されており、その明細は販売収入表(同押号の符五二)のとおりであるか、売上帳(同押号の符九二)、売掛帳(同押号の符九六、符九七)、取引高証明書、その他前掲各証拠によって 実の取引額か認められる。
申告書と異なる販売収入は昭和三五年度販売収入表(別紙9)記載のとおりであり、その脱漏額は一、八三一万六、三四三円である。
(3) 営業外収益
営業外収益の申告額は、昭和三五年決算書 (同押号の符四六)、法人税決定決議書によると二四八万五、九一三円であり、その明細は営業外収益の内訳書に記載されているとおりであるが、佐藤トラック、高橋トラックに対する名義料、清水建設社員に対する返戻金の手数料が計上されていないことは明白である。
右金額は、経理日誌(同押号の符一三七、符一三八)、その他前掲各証拠によると二四万円であることが認められ、その明細は昭和三五年度営業外収益表(別紙10)記載のとおりである。
(4) 販売原価
販売原価は法人税決定決議書によると七、二三〇万一、六二〇円が申告されており、その明細は、販売原価の内訳書に記載されているが、第一二回公判議審中の証人大塚賢三の供述部分によると、販売原価は、昭三五年決算関係資料、貸借対照表、損益計算書(同押号の符四八)、昭和三五年決算関係資料(営業費内訳表)(同押号の符五七)、昭和三五年決算関係資料(一般管理費ほか諸費)(同押号の符六四)に記載されている六、八六七万六、六三〇円が真実の販売原価と認められるのであり、申告において、利益を減少させるため意図的に三六二万四、九九〇円を増額している事実が認められる。
ところで、昭和三四年度と同様に、清水建設、鹿島建設の社員に対する返戻金、佐藤トラック、高橋トラックに対する運送費は、いずれも申告には計上されておらず、その合計金額は昭和三五年度販売原価表(別紙11)記載のとおり八四九万七、一一八円であるか、右のとおり三六二万四、九九〇円を増額して申告しているので、それを控除した四八七万二、一二八円を申告額に増額して認める。
(5) 一般管理費
(イ) 一般管理費の申告額は法人税決定決議書(同押号の符一三九)によれば一、一六二万〇、八四四円であり、その内訳は一般管理費の内訳費に記載されているとおりであるが、昭和三四年度と同様に交際費、旅費、労務管理費、車両費、雑費合計五七〇万円を加算すべきものと認める。(検第一一一、被告人工藤秀明の収税官吏に対する質問てん末書)
(ロ) 出納帳(同押号の符六)のうち、申告されていない簿外経費として一二〇万六、六〇〇円を認める。その明細は昭和三五年度一般管理費(別紙12)記載のとおりである。
(ハ) よって、右(イ)、(ロ)の合計額六九〇万六、六〇〇円が一般管理費として増額すべき金額である。
(6) 営業外費用
昭和三四年度と同様に銀行関係に対する借入金の利息が計上されていないので、大分信用金庫作成の貸付金元帳(検第一八八)により、昭和三五年度営業外費用表(別紙13)記載のとおり、一三万六、〇四〇円の支払利息を営業外費用として認める。
(7) 未納事業税
昭和三四年度の所得利益は、前記のとおり、八一二万九、〇八二円、脱漏所得は、六三二万四、三五一円となっているので、これに対する事業税は、地方税法第七二条、第七二条二二によって七五万八、九二二円となる。
(8) 弁護人は、被告人工藤秀明が京町工業に一三〇万円、 重了に一二万円、石田安都士に三〇万円貸付けたものがいずれも貸倒れになったのでいずれも損金として加算されるべき旨主張するが、これはいずれも被告人工藤秀明が個人的に京町工業らに貸付けたのであるから、被告会社の取引とは無関係であり、しかも当該債権が回収不能になったという証拠はないし、仮りに、それが回収不能になったとしても、被告会社は、被告人工藤秀明に対する右と同額の債権を有していると解されるので、いまだ貸倒れ金として損金に加算されるべき筋合のものではない。
(9) 以上明らかにしたとおり、完成工事高については、四三二万〇、八三八円、販売収入については、一、八三一万六、三四三円、営業外収益については三四万円、販売原価については四八七万二、一二八円、一般管理費については六九〇万六、六〇〇円、営業外費用については一三万六、〇四〇円、未納事業税については七五万八、九二二円をそれぞれ増額することし、これによって当期利益金は一、〇三〇万三、四九一円を脱漏したことになり、昭和三五年度の当期利益金は一、二四四万八、七四二円となる。
ところで、別紙2の申告額として記載したのは、法人税決定決議書中の第2回決算報告書によって認めたものであるが、同報告書には、租税公課として、昭和三四年度の法人税四万二、〇八〇円、県民税、加算金四万八、四〇〇円が存在し、これらは税法上損金として認められないので、以上合計九万〇、四八〇円を当期利益金に加算することとし、利子税八、六七〇円は損金として認められるのでこれを減算し、さらに営業外収益として計上されている未成工事支出金(前期更正受入金)一五万二、六四八円、骨材収入洩(前期更正受入金)二五万五、一〇六円、ジープ等車両償却超過前期否認受入金八万三、二六二円、シボレー車両償却超過前期否認受入金二万五、〇〇〇円、保険収入前期否認受入金三万九、七二九円、賃借料収入洩前期否認受入金一万九、五〇〇円、以上五七万五、二四五円は、昭和三四年度の更正決定によって、いずれも課税されているので、昭和三五年度の課税対象にはならない。
よって以上のとおり、当期利益金の申告額二一四万五、二五一円にそれぞれ加算、減算した一六五万一、八一六円が課税されるべき所得金額として申告されたものであるが、損益計算法によって出された真正な当期利益金一、二四四万八、七四二円についても、右のとおり加算、減算しなければならないので、課税対象となる所得金額は一、一九五万五、三〇七円であり、その税額は四四四万三、〇一六円となり、脱税額は三八九万七、九二六円であるが、検察官の主張の範囲内において三六九万五、七九六円の逋脱の事実を認定すべきものである。
三、減価償却費
弁護人は、昭和三四年度、昭和三五年度における減価償却費のうち、機械及装置、車両運搬具、工具器具に対する償却費につき、被告人が個人経営時代に所有していた資産を被告会社がそのまま引き継いだ中古資産であるにもかかわらず、新品と同様の耐用年数で減価償却を行ったため、著しく過少に計上されており、大蔵省令に定める手続によっておればその差額(昭和三四年度においては四三九万九、五八四円、昭和三五年度においては一二八万七、五三九円)は当然損金と見なされるべきであり、また被告会社が昭和三四年一月一五日に小松製作所から購入したバケットローダー(D-50型)五一三万九、五四〇円の取得価額は、七〇万円の下取り価額も含まれるべきであるから、昭和三四年度においては二五万八、三〇〇円、昭和三五年度においては一六万二、九八七円の車両減価償却費が増加することになると主張する。
しかしながら、中古資産についての減価償却の方法は、昭和二六年五月三一日大蔵省令第五〇号(本件年度適用最終改正昭三四省令第八一号)第四条によれば、耐用使用年数を見積って計算する(残存年数)か、新品と同様に法定耐用年数によるか、申告者の自由な判断に委ねられているのであって、申告時に被告会社は法定耐用年数によって減価償却を行う方法を選択したにすぎないのであるから、法定耐用年数に依ったのは間違いであるとの弁護人の主張は採用できない。
また、バケットローダーについての減価償却についても、車両購入契約書綴(同押号の符四二)によると、昭和三四年一月一五日小松製作所からD-50型バケットローダー一台を五一三万九、五四〇円で購入し、その代金の支払方法として従来存していたバケットローダーを七〇万円で下取りさせたのであり、弁護人主張のように、購入したバケットローダーの価額に上積みして七〇万円が加算されるものではない。
なお、法人の減価償却について付言すると、減価償却は固定資産について考えられる物理的、経済的減少を価額に見積って帳薄上減額すべきものであるから、納税義務者が損失に計上すると否とを問わず損失が生じるので、所得から当然控除されなければならないようにも考えられるが、法人税法は、納税義務者が経理上の処理をしたもののみについて減価償却費として認め、これを損金として扱うことにしている。つまりこれは、国が法人の資産をいちいち再評価すべきことを義務づけているのではなく、むしろ、納税義務者の自主的判断に委ね、減価償却をするか否か、減価償却の方法の選択、償却の額、法定限度以下の償却をすることによる耐用手数の延長等は、いずれも法定の範囲内において自由に選択できるのである。法人税法では、不当に過大な減価償却が行なわれないように規制しているに過ぎず、その範医内で自由に減価償却費を申告した以上、かりに、弁護人主張のように税法の無知、誤解に基く過少の減価償却費だとしても、法定の申告期限後において、これを法人の損金に計上することは許されない。
(法令の適用)
被告人工藤秀明の判示第一の(一)および(二)の各所為は、いずれも昭和四〇年法律第三七号附則第一九条によりその改正前の法人税法第四八条第一項に該当するので所定刑中いずれも罰金刑を選択し、判示第二の各所為はいずれも刑法第一九八条第一項、第一九七条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法第四七条、第一〇条により、最も重い判示第二の(一)の(1)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法第四八条第一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条第二項により判示第一の(一)および(二)の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役一年二月および罰金五〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは同法第一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
被告人工藤建設工業株式会社の判示第一の(一)および(二)の各所為は、いずれも昭和四〇年法律第三七号附則第一九条によりその改正前の法人税法第五一条第一項、第四八条第一項に該当するが、以上は刑法第四五条前段の併合罪なので、同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金一五〇万円に処する。
訴訟費用のうち、証人太刀川信太郎に支給した分および昭和三八年一一月一八日に証人榎本修に支給した分は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告人工藤秀明に負担させ、その余の訴詮費用については同条、第一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 土井俊文 裁判官 三宅純一 裁判官 田中正人)
昭和34年度修正損益計算書 (1)
損失の部 利益の部
<省略>
昭和35年度修正損益計算表 (2)
<省略>
昭和34年度完成工事高 (3)
<省略>
昭和34年度販売収入 (4)
<省略>
<省略>
昭和34年度営業外収益 (5)
<省略>
昭和34年度販売原価 (6)
<省略>
<省略>
昭和34年度営業外費用 (7)
検出188のNO.173によれば以下のとおり
<省略>
検第188のNO.172によれば以下のとおり
<省略>
合計 69,820
23,191円+69,820=93,011円
昭和35年度完成工事高 (8)
<省略>
昭和35年度販売収入 (9)
<省略>
<省略>
昭和35年度営業外費用 (13)
検第188(21回公判提出)の番号172によれば次のとおりである。
<省略>
昭和35年度 営業外収益 (10)
<省略>
昭和35年度販売原価 (11)
(清水建設返戻金)
<省略>
(佐藤トラック・高橋トラックの運送費)
<省略>
昭和35年度一般管理費 (12)
<省略>